2025年のジャパンモビリティショー（東京ビッグサイト）は、次世代モビリティの祭典として例年以上の盛り上がりを見せました。
私自身、運輸・物流業に関わる者として、特に注目したのは「商用車・トラックゾーン」です。
人の移動を中心にしたモビリティ展示の中で、物流を支えるトラックの存在感は決して小さくありません。
そして今回は、「水素」や「電気」など、環境対応型のトラックが一斉に展示されていたのが印象的でした。
三菱ふそう ― 水素エンジンで大型トラックの未来を拓く
三菱ふそうのブースでは、水素をテーマにした2種類の大型トラックが来場者の注目を集めていました。
ひとつは 水素エンジン搭載大型トラック「H2IC」。
水素を燃焼させる内燃機関で駆動し、既存のディーゼル車の構造や技術を活用することで、スムーズな移行を実現します。燃料には圧縮水素ガスを使用し、建設現場など高出力が求められる用途に適しています。
もうひとつは 液体水素搭載燃料電池大型トラック「H2FC」。
こちらは燃料電池システムで水素を電力に変換し、電気モーターで走行します。液体水素の採用により航続距離の拡大と短時間の充填を両立。さらに、ディーゼル車と同等のリヤボディサイズを維持しながら積載量の制限がない点も特徴です。
2つのアプローチで水素社会の実現に挑む三菱ふそう。
「燃焼」と「電動化」という異なる技術で、多様な現場ニーズに応える柔軟な選択肢を提示していました。
日野自動車 ― 燃料電池×自動運転で描く次世代トラックの姿
日野ブースでは、燃料電池大型トラック「日野プロフィア Z FCV（L4コンセプト）」が注目を集めていました。
トヨタと共同開発した燃料電池システムを2基搭載し、水素を電力に変換してモーターで駆動。
航続距離は約650km、水素充填も15〜30分と実用的な性能を実現しています。
また、自動運転レベル4相当を想定した「L4コンセプト」として、
高性能レーダーやLiDARなどのセンサーを搭載し、安全運行の未来を提示しました。
いすゞ自動車 ― 多様なモビリティで物流課題に挑む
いすゞ自動車のブースは、「『運ぶ』で描く、自由で多彩な、みんなの未来」をテーマに、体験型の展示が中心でした。注目は、積載効率と安定性を両立させたGIGA車両総重量25トン低床3軸車。長距離輸送を想定した低床構造で、ドライバー負担の軽減や積み下ろし効率の向上が図られています。
さらに注目されたのが、VCCC（Vertical Core Cycle Concept）。これは「バーチカルコア」と呼ばれる架装対応の共通基盤を中心に、事業者・生活者・地域の人々が共に活用できる物流プラットフォームを構築する構想です。車両を主要部品単位で循環的に活用できるモジュール化の仕組みも提案され、サステナブルな運行と稼働効率の最大化を目指しています。いすゞらしい、“現実に根ざした未来志向”が印象に残る展示でした。
UDトラックス ― Quon 最新仕様で“ドライバーと現場”への提案
UDトラックスブースの Quon GW 6×4 を見て回ると、ESCOT-VII ATレバーや「UD Active Steering」といった表示が目立ちました。12段電子制御式オートマチックトランスミッション「ESCOT-Ⅶ」と運転支援機能「UDアクティブステアリング」による高い運転性能でドライバーの負担を軽減。
荷物を長時間輸送するドライバーを支えるための装備です。写真を撮りながら、「この仕様が実運行でどう効くか」を想像しました。信頼性を最重要視する現場にとって、「壊れない」「運べる」が前提です。その前提に立った展示内容でした。
BYD ― T35 参考出展で示した“都市配送”のすぐそこ
BYD の小型電動トラック T35（参考出展）には、多くの注目が集まっていました。普通免許で運転可能という仕様もあり、「今すぐ使える電動トラック」として配送事業者にも届きそうなモデルです。ブースでは「V2L機能」「アルミ架装バン仕様」という説明があり、荷物を運びながら現場で電力を供給する可能性も見えました。短・中距離配送の変革が、もう目の前という印象です。中国のBYDは、乗用EVのイメージが強いメーカーですが、今回の展示では小型電動トラックが目を引きました。
静粛性が高く、発進トルクが強いEVの特性を活かし、都市内配送をターゲットにしています。
現実的な課題と“これから”
とはいえ、水素や電動トラックの普及には、まだ多くの課題が残ります。
車両価格は既存ディーゼル車の約2倍にのぼり、水素ステーションや急速充電設備といったインフラ整備も十分とはいえません。航続距離と積載量のバランス、整備士やドライバーへの教育体制など、現場での対応にも時間が必要です。
現場では「すぐには切り替えられない」という声も多く、当面はディーゼルとの併用が現実的な選択となるでしょう。
しかし、各メーカーが本気で技術開発に取り組んでいることは確かで、次の10年で物流車両の形は大きく変わると感じます。
業界に求められる新しい視点
どのメーカーの展示からも、水素や電動化が“次のステップ”として明確に打ち出されていました。
しかし、技術の進化だけでは十分ではありません。インフラ整備、導入コスト、人材教育、そして運行管理ノウハウなど、現場を支える基盤をどう整えるかが、これからの大きな課題です。
私たち運輸・物流の現場にいる者として、変化を「待つ」のではなく「準備する」姿勢が求められています。
未来のトラックが動き出すとき、それを受け止める現場の体制が整っているかどうか――そこに業界の真価が問われています。
今回の試乗エリアでは、若い来場者の姿も多く見られました。
物流業界は今、人手不足という深刻な課題を抱えていますが、水素やEVトラックといった新技術の登場が、業界のイメージを変えるきっかけになるかもしれません。
「環境にやさしい」「かっこいい」「デジタルでつながる仕事」――
そんなポジティブな印象が広がれば、新しい世代が物流の仕事に関心を持つ可能性も高まります。
トラックの進化は、単なる車の話ではなく、“働く人をどう惹きつけるか”という産業全体の挑戦でもある。
Japan Mobility Show 2025 の会場で、その未来への第一歩が確かに感じられました。
まとめ（メッセージ）
Japan Mobility Show 2025 は、単なるモーターショーではなく、「物流の近未来」をリアルに体感できる実践的な舞台になっていました。商用車エリアでは、未来のトラックが単なる展示ではなく、**実際の業務を見据えた“提案”**として並び、来場者の関心を集めていました。
会場では、**水素トラックや電動トラック、デジタル運行支援、そして「つながる物流」**といった新技術が各メーカーから発信され、業界が確実に変わり始めていることを感じました。三菱ふそう、日野、いすゞ、UD、BYD――それぞれが異なる角度から「現場で使えるソリューション」を提示し、技術の進歩を実感できる内容でした。
ただし、こうした技術を実際の現場で運用するためには、インフラ整備・導入コスト・人材教育といった現実的な課題がまだ残っています。水素や電動といった新しい動力源が本格的に普及するまでには、もう少し時間がかかるでしょう。
それでも、今回の展示を通じて確かに感じたのは、「働くクルマ」が着実に進化を始めているということ。技術を理解し、現場での準備を一歩ずつ進めることが、次の10年を安全かつ確実に迎えるカギになります。
働くクルマが進化するその先で、私たちの仕事のカタチも新しくなる――
それを実感した1日でした。
